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月刊「  っとナノム」

フラーレンを安心してお使いいただくために

◆新素材としてのフラーレン

 フラーレンの分子構造を見た方は、その美しい姿に自然界の不思議を感じられることと思います。代表的なフラーレンであるC60はまさに炭素で出来たサッカーボールです。これまで純粋な炭素材料としては、ダイヤモンドと黒鉛が知られていましたが、20世紀末にフラーレンが第三の炭素同素体として発見され、新素材としての実用化が始まりました。ダイヤモンドは正四面体の炭素が大変強固に結びついた構造であり、黒鉛結晶は層状の構造であるのに対して、フラーレンは球状の分子です。すなわち、フラーレンは純粋な炭素であるにもかかわらず分子である、という大きな特徴を有しています。フラーレンC60の分子直径はちょうど1nm(炭素骨格としては0.7nm)であり、代表的なナノ素材(ナノカーボン)としても注目を浴びています。

◆フラーレンの実用展開

 従来は高価で供給量も限られていたフラーレンですが、世界初の本格工業生産が実現し、バイオ医薬・IT・環境・エネルギー・材料など様々な分野で技術革新に大きく貢献することが期待されています。フロンティアカーボン社では、純粋なフラーレンに加えてさらにその誘導体・加工品に関しても安定量産体制が整ってきています。フラーレンそのものの特徴を活かしたCFRPなどの複合材料分野、金属材料分野、及び誘導体として機能を設計したIT分野、有機太陽電池分野等に関しては、フロンティアカーボン社の事業方針として特に重点化した取組みを行っています。

◆ナノリスク評価の取り組み

 ナノテクノロジーは21世紀前半の最も重要な科学技術であるという認識のもと、国際的にその研究開発、産業化が進められています。同時に、そのリスク評価の重要性についても、2005年から開始された安全性を含めた国際標準化活動と併せて議論されています。健全なナノテクノロジーの発展のためには社会受容性が必須であることに加えて、新技術・新素材に関わる国際競争力に直接的に繋がる極めて重要な取組みと考えられています。

 このナノリスク評価の中で、直径が数10nm程度のサイズの粒子による生体影響が何かあるかもしれないとの議論がなされています。現時点でナノ粒子特有の毒性が確認されているわけではありませんが、量産可能で代表的なナノ素材である酸化チタンや酸化亜鉛等の金属酸化物、フラーレン、カーボンナノチューブ等を中心としてナノサイズ固有の生体影響があるのか、本格的な検討が国内外で開始されています。これまで発表された幾つかのナノ粒子影響検討は残念ながら信頼性に欠けるものもあり、まず評価手法の確立が求められています。試料の調製法・キャラクタリゼーション*)や評価プロセスの正確性が重要で、信頼できる評価検討のためには高度な技術体系の構築が必要とされています。フロンティアカーボン社としては、体系的研究・議論および標準化の進展のために、試験試料や技術情報の提供を通して最大限の協力を国内外において行うとともに、多くのシンポジウムや会議における議論にも参画しています。

*)ナノ粒子のキャラクタリゼーションについて  ナノ粒子の安全性評価検討においては、まず純度(不純物)の問題が大変重要と考えられています。そして実際の被検サンプル粒子の化学組成と粒子サイズ、分布や形態等を正確に測定する分析・解析手法については高度な技術レベルが必要であり、さらなる研究開発が必要とされている部分もあります。また、素材によっても見るべき内容やその優先度に考慮が必要で、これらを踏まえてナノ素材、ナノ粒子のキャラクタリゼーションに関し国際規格に向けての議論が現在重ねられています。

◆フラーレンの安全性評価

 フラーレン自身の安全性に関しましては、1993年〜1995年に実施された文部省重点領域研究の結果などで、水不溶性のため急性毒性など重篤な影響がないことが報告されています。また、フラーレンは凝集性が強いため、通常は平均粒径が数μmから数10μmの結晶凝集体として存在しています。しかし、通常では起こり難い特殊な条件下等においての知見なども含めて、様々な観点からさらにフラーレンの安全性とその取り扱いについて理解を深めるために、国内外の研究機関での検討とともにデータを蓄積していきたいと考えています。

 例えば、通常の環境水中で発生するかもしれないフラーレンの微粒子化を想定し、弊社製品を限界と思われるサイズにまで小さくした粒子を用いたミジンコ・メダカおよびコイの水棲生物試験を(財)化学物質評価研究機構と共同研究にて行いましたが、急性毒性や濃縮性(体内蓄積性)において問題となるような影響は見られないという結果でした。この内容は2005年9月1日の日本環境毒性学会で報告されています。

◆フラーレンをお使い頂くために

 材料そのものの安全性と同時に、リスク管理における重要な観点として暴露に対する対策が指摘されています。フラーレンに関しても技術の方向性としてできるだけ微細な状態を目指した応用展開があり、これらナノ粒子関連の検討が進捗している間は、例えばカーボンブラック製品等と同様に保護具の着用や局所排気設備の設置など曝露低減措置の徹底をお願いするとともに、安全性に関わる今後の成果を含めた知見をMSDS等を通じて情報提供させて頂き、適切にお使い頂けるようお伝えしていく方針です。

 フラーレンは代表的なナノ素材であると同時に、さらに広い意味での新規基盤素材として多くの産業分野で貢献すると期待されています。フラーレンがその技術的価値だけでなく、本当に我々の生活にとって必要とされる社会的価値を持った新素材として安心してお使い頂けるよう全力を尽くしたいと考えています。